『レオン 完全版』 ©1994 GAUMONT/LES FILMS DU DAUPHIN
簡単なあらすじ(ネタバレなし)
麻薬密売組織に家族を皆殺しにされた少女・マチルダ。
12歳にして命を狙われる身となり、身寄りがおらず行く宛もないマチルダは、偶然知り合った隣人の男・レオンに助けを求める。
しかし、その男の正体は凄腕の殺し屋だった。
レオンの正体を知ったマチルダは、復讐を果たすために、レオンに「殺し屋になりたい」と教えを乞う。
初めは難色を示していたレオンだが、時間を重ねるごとに次第に心を通わせ、やがて二人はかけがえのない存在となり…
詳しいあらすじ(ネタバレあり)
『レオン 完全版』 ©1994 GAUMONT/LES FILMS DU DAUPHIN
アメリカのイタリア人街。
特徴的な丸メガネをかけたレオンは、凄腕の殺し屋だ。
日頃、彼に仕事を回しているトニーから、この日も依頼を受ける。
実行当日。数十人ものギャングを難なく葬り、レオンは見事に任務をやり遂げる。
とある日、レオンが自宅アパートに戻ると、階段越しに少女・マチルダがタバコを口に咥えて座っていた。
マチルダの顔にはあざがあり、父親から虐待をされているらしかった。
何気なく会話を交わして、自室に戻るレオン。
すると、その廊下からは、麻薬の取引について、言い争いをしているらしい男たちがいた。
二人に言い寄られていた男は少女の父親で、麻薬の取引相手であったスタンスフィールドという男から、麻薬を盗んだ疑いをかけられていた。
否定するマチルダの父だが、スタンスフィールドは犯人を見つけるように言い残す。
レオンはそんな様子をスコープ越しに眺めていた。
マチルダは家庭内では、父親から虐待を受け、義母からも冷遇され、義姉からはきつく当たられていた。
そんなマチルダの唯一の心の拠り所はまだ幼い弟。
弟もマチルダに懐いており、マチルダは、家族の中で弟のことを唯一大切に思っていた。
次の日、レオンは再び廊下でマチルダに出会う。
マチルダは鼻血を流しており、虐待のことを気にかけていたレオンは話しかけ、マチルダはレオンのために牛乳を買ってこようとアパートを出ていった。
しかし、マチルダと入れ替わりに、スタンスフィールドが手下を連れてアパートにやってくる。
彼らは家の中に侵入し、父親のみならず、家族全員を手にかける。
ベッドの下に隠れていた、マチルダが唯一愛していた弟も、抵抗あえなく手にかけられてしまう。
そんな時、マチルダが買い物を終え戻ってきた。
ドアの前に父親が倒れていたのを目撃したマチルダは事情を察し、必死に涙をこらえながらレオンの家をノックし、レオンはマチルダを招き入れた。
しかし、スタンスフィールドは家族写真から、マチルダの存在を知ってしまった。
彼女を探すことを命じ、父親が隠し持っていた麻薬を見つけ、スタンスフィールドたちはアパートを後にする。
マチルダは、父親や義母や義姉はかまわないが、弟が手をかけられたことだけはどうしても許せなかった。
レオンは不器用ながらも、そんなマチルダを励ます。
レオンが殺し屋であることを知った彼女は、弟の報復をするために、レオンに殺し方を教えてほしいと頼むが、断られる。
身寄りがいなかったマチルダを、レオンはかくまうことになる。
『レオン 完全版』 ©1994 GAUMONT/LES FILMS DU DAUPHIN
翌朝、マチルダに出ていくよう命じるレオン。
しかし、彼女に行く宛てはなく、マチルダは変わらず「殺し屋になりたい」とせがむ。
「子供だから」と断るレオンだが、マチルダは直後、窓から銃を発砲。
レオンはやむなく、マチルダと共に、観葉植物と仕事道具を持ってアパートを出た。
彼らは親子のふりをして、ホテルに滞在する。
決意の固いマチルダのために、レオンはトニーに頼み、初心者向けのライフルを手配してもらう。
レオンは銃の扱い方をマチルダに教え、マチルダはその代わりに家事や買い物をこなし、字の読み書きができないレオンに勉強を教えていた。
二人は、そんな日々を重ねるごとに、徐々に関係を深めていった。
レオンはこれまでの仕事の報酬をトニーに預けていた。
その金を渡してほしいというレオンだが、うまく流されてしまった。
ある日、マチルダは事件現場となった家の様子を伺いに戻る。
自宅から弟の人形と隠されていた現金を回収する。
すると、そこにスタンスフィールドと刑事たちがやってきた。
事情聴取を受けるが、スタンスフィールドは激昂し、その場を立ち去る。
スタンスフィールドはパトカーに乗り込み、マチルダはタクシーで尾行する。
着いた先は、警察署の麻薬取締局。
スタンスフィールドは、麻薬取引や殺人に手を出す、現役の麻薬捜査官だったのだ。
『レオン 完全版』 ©1994 GAUMONT/LES FILMS DU DAUPHIN
関係を怪しんだホテルの人間に通報されたことで、レオンとマチルダは再び拠点を変える。
マチルダはレオンに、犯人が現役の警官であったことを伝え、殺しの依頼をするが、レオンはこれを拒否する。
人を殺せば取り返しがつかないと諭すレオンに対し、「私が欲しいのは愛か死よ」と対抗するマチルダ。
マチルダは、勝ったら生涯レオンと一緒にいて、負けたら別れて一人に戻るという勝負を持ちかける。
「私が死んだら悲しむの?」というマチルダの問いかけに、レオンは否定する。
マチルダは涙を流しながら、自分の頭に銃口を向ける。
発砲と同時に、レオンはマチルダの手を払った。
勝負に負けたレオンは、トニーにもマチルダを紹介し、自分の仕事を手伝わせることに。
『レオン 完全版』 ©1994 GAUMONT/LES FILMS DU DAUPHIN
二人は、協力して仕事をこなしていく。
時間を共に過ごすうちに、レオンとマチルダは惹かれ合う。
マチルダはレオンに対して愛情を示し、レオンも「自分の身に何かあれば、貯めてある金をマチルダに渡してくれ」とトニー頼む。
ある日、レオンが仕事の間に、マチルダは配達を装い、麻薬取締局に潜入する。
マチルダがトイレに入ると、そこにはスタンスフィールドがいた。
スタンスフィールドは、マチルダが誰かの遣いで来たと考えるが、彼女は「弟の恨みで来た」と自信の身を明かす。
マチルダに銃を向けるスタンスフィールドだが、そこに部下が入ってきて、突然押し入ってきたイタリア人の男に、他の部下が手をかけられたことを伝えられる。
スタンスフィールドは、部下にマチルダをオフィスに連れるよう命じ、その場を後にする。
スタンスフィールドの部下を手にかけたのはレオンだった。
マチルダはレオンに対して、「スタンスフィールドに復讐をしにいく」という置き手紙を残しており、それを見たレオンは、麻薬取締局に忍び込み、マチルダを救出する。
帰宅後、レオンはマチルダに以前恋をしていた女性がいたことを明かす。
身分の違いから、女性の父親に拒まれ、最終的に言うことを聞かない娘を、父親は殺してしまった。
レオンは愛する女性を手にかけられた怒りから、父親を手にかけ、それ以降、殺し屋としての人生を歩んできた。
そんなレオンの話を聞いたマチルダは、一つのベッドでレオンと共に眠る。
一方、手下を殺されたスタンスフィールドは怒り心頭。
イタリア系の男であるという手がかりから、普段自分が仕事を依頼していたトニーの元を訪ね、「心当たりはないか」と問い詰める。
朝、目覚めたマチルダは、いつもどおり買い物に出かける。
しかし、帰りのアパートの廊下で複数人の警官に取り押さえられる。
スタンスフィールドは、レオンの居場所を突き止め、警察部隊を送り込んできたのだ。
マチルダは警官に嘘のノックの合図を教え、異変を察知したレオンは、突入してきた警官を次々と手にかける。
警官の一人を人質に取ったレオンは、マチルダを解放させ、部屋に立てこもる。
警察部隊から激しい攻撃を受けるレオンは、部屋の壁に穴を開け、マチルダを脱出させようとする。
しかし、マチルダは一人で脱出することを拒む。
レオンは、必ず後で落ち合うことを約束した後に、愛の言葉を交わし、マチルダは一人で脱出した。
部屋を爆撃されたレオンは、警官の軍服に着替えてなりすまし、うまくその場から脱出をした。
しかし、周りの警官が騙される中、スタンスフィールドだけはその姿を捉えていた。
『レオン 完全版』 ©1994 GAUMONT/LES FILMS DU DAUPHIN
警官の目をかいくぐり、出口まであと一歩のレオン。
しかし、そんなレオンの背後から、銃撃をしたのはスタンスフィールド。
レオンは倒れ込み、瀕死となる。
しかし、スタンスフィールドがレオンに近寄り、言葉を交わすと同時に大爆発。
レオンは手榴弾でスタンスフィールドを道連れにした。
レオンを亡くしたマチルダはトニーと話をしていた。
レオンの遺産をこれまでどおり管理することを話すトニーに、マチルダは「仕事をさせて」と頼むが、トニーは一蹴し、「寄宿学校に戻れ」と命じる。
弟の形見であるぬいぐるみと、レオンの形見である観葉植物を手にし、マチルダは学校に戻った。
学校側は話を聞き、マチルダを受け入れる。
マチルダは、レオンの大事にしていた観葉植物を学校の庭に植えて、彼のことを想い続けるのであった。
登場人物
レオン(ジャン・レノ)
『レオン 完全版』 ©1994 GAUMONT/LES FILMS DU DAUPHIN
イタリア系移民で、ニューヨークを拠点とする一流の殺し屋。
マフィア複数人が相手であっても、難なく任務を遂行する凄腕の持ち主。
冷徹な殺し屋である反面、「女性と子どもは殺さない」というポリシーを持ち、人思いな一面がある。
また、良くも悪くも殺し屋一筋で人生を歩んできたため、純粋な性格の持ち主でもある。
本作においても、そんな性格から、虐待を受けていたマチルダのことを気にかけ、結果的に彼女を匿うこととなった。
ストイックな生活を送り、牛乳を愛飲している。
マチルダ(ナタリー・ポートマン)
『レオン 完全版』 ©1994 GAUMONT/LES FILMS DU DAUPHIN
レオンが住んでいたアパートの隣に住む12歳の少女。
父親から虐待を受けていたり、母親や姉からは冷遇されていたりと不遇な境遇で、そんな複雑な家庭環境からか、学校を抜け出したり、タバコを吸ったりと素行不良が目立つ。
「愛」や「死」に関する達観した発言をしたり、文学に関する教養があったりと、大人びた部分が見られる一方で、考えるよりも先に感情で行動に走ってしまうという子どもっぽい一面も垣間見える。
スタンスフィールド(ゲイリー・オールドマン)
『レオン 完全版』 ©1994 GAUMONT/LES FILMS DU DAUPHIN
マチルダの家族を皆殺しにした麻薬組織のリーダー。
麻薬売買、薬物乱用、殺人といった数々の悪事を働く一方で、麻薬取締局の刑事であるという表の顔を持つ。
洞察力に優れた頭脳明晰な人物だが、女性や子どもであろうと手にかけることを全くいとわない冷酷で残忍な性格の持ち主。
トニー(ダニー・アイエロ)
『レオン 完全版』 ©1994 GAUMONT/LES FILMS DU DAUPHIN
表向きはニューヨークのイタリア街のレストランオーナーだが、裏ではレオンにも仕事を回しているイタリア系マフィアのボス。
青年時代からレオンを育て上げ、彼を一流の殺し屋に育て上げた張本人。
解説・考察
レオンとマチルダの関係性
本作で最も難解かつ意見が割れるのは、「レオンとマチルダの関係性について」である。
二人は結局、恋愛関係にあったのだろうか?
結論からいえば、「二人は幼い恋愛関係にあった」と考えられる。
以下で考察をしていきたい。
作中にて、マチルダはレオンに対して、ストレートに愛を伝えている。
12歳の女の子の恋心が、本当の愛であるかは諸説ある。
ただ、互いの境遇や特別な状況下において二人だけで生活をしていたという実態を考慮すれば、マチルダは本気でレオンに恋心を抱いていたと解釈してもいいだろう。
では、レオンはどうだろうか?
レオンは寡黙で、奥手な性格でもあるため、明確にマチルダに対して愛情を表現するシーンは登場しない。
ただ、やはり状況や描写などを踏まえれば、レオンもマチルダに対して特別な感情を抱いていたといっても間違いではないだろう。
留意しておくべき点は、レオンは凄腕の殺し屋である反面、その中身は純粋な少年のような心を持っているということである。
十分な教育を受けることはなく、淡々と司令された任務だけをこなしてきたレオンの人生経験は乏しいといえる。
そういったことの影響か、トニーとの金銭授受のやりとりが象徴するように、レオンは非常に純粋無垢である。
一方のマチルダは、酷烈な家庭環境から、達観した言動や思考がかいま見える。
しかし、後先考えずに、行動を起こすといった側面もあり、マチルダはまだまだ未熟であるといえるだろう。
つまり、二人は、いわば「少年と少女」なのだ。
「少年と少女による恋愛関係――幼い恋愛関係」、これがレオンとマチルダの関係であると考察できる。
偏に恋愛関係とはいっても、ただの「ロリコン男と少女による恋愛関係」とはわけが違う。
『レオン』のテーマ
レオンとマチルダは、互いに幼い恋愛感情を抱いているという考察をした。
実は、ここに本作のテーマが孕んでいるのではないかと思う。
結論から言うと、本作のテーマは、「純粋な愛」である。
彼ら二人の恋愛関係は、一般的な常識やモラルの観点からいえば、揶揄されるようなものである。
しかし、当事者である二人には、作為的な考えは一切ない。
ただ純粋に、ひたむきに、お互いのことを想い合っているのだ。
常識や規範、モラルといったものに囚われないような、「純粋な愛」こそが、『レオン』のテーマなのだ。
(さらに本作は、当事者の意思を鑑みずに、年齢差のある恋愛関係のことを、一様に「ロリコンだ」などと糾弾する世間に対してのアンチテーゼといえるかもしれない。
これは、リュック・ベッソン監督自身が、未成年と交際をし、大きな非難を浴びたという過去の出来事からの推察である)
トニーは裏切り者?
「結局トニーは裏切り者だったのか?」
この点も、議論の余地があるポイントだ。
まず、スタンスフィールドにレオンの情報を流したのは間違いなくトニーだ。
スタンスフィールドがトニーの元を押しかけ、その後すぐにレオンがスタンスフィールドの奇襲を受けていたことから、それはわかる。
しかし、レオンの死後、マチルダがトニーと会話をした際、彼の顔には多くの傷跡がみえる。
このことから、トニーは当初はレオンの情報提供を拒んだが、スタンスフィールドによる拷問を受けたことで、やむなく情報を渡したことが想定される。
トニーが本当に「裏切り者の悪人」であるならば、初めからすんなりとレオンの情報を渡していたはずである。
必死に黙秘をしていたが、暴行を受けた末に身の危険を感じたトニーは、レオンの情報を渡すしかなかった。
この顔の傷跡をわざわざ描写していることに、「トニーは裏切り者ではなかった」という解が出ているように思う。
ぬいぐるみと観葉植物
マチルダが人生で心の底から愛した人物は二人。
弟とレオンだ。
弟の形見であるぬいぐるみと、レオンの形見である観葉植物を、マチルダは大事に抱える。
観葉植物について
レオン「無口だからいい。俺と同じで――、根がない」
『レオン 完全版』 ©1994 GAUMONT/LES FILMS DU DAUPHIN
レオンは、殺し屋として各地を転々とし、根を張らない人生を送ってきた。
レオンには居場所がなかった。
そんな自分と観葉植物を重ね合わせている。
観葉植物は、根がないにもかかわらず、陽の光を浴びて、生き生きと育つ。
そんな観葉植物の勇姿に、レオンは励まされてきたのだろう。
マチルダ「大地に植えれば根を張るわ」
『レオン 完全版』 ©1994 GAUMONT/LES FILMS DU DAUPHIN
しかし、そんなレオンに、根を与えてくれるマチルダが現れた。
上記のマチルダの台詞は、一種の告白のようなものと捉えることもできる。
「これまでは居場所のなかったあなただけど、これからは私の元に根を張って、一緒に過ごしましょう」…。
レオンの死後、マチルダは学校という場に自分の根を張ることを決める。
そして、自分が根を張った学校という大地に、マチルダはレオンの形見である観葉植物を植えてあげる。
根無し草であった観葉植物は、ようやく居場所を見つけ、根を張ることができた。
名言
マチルダ 「大人になっても人生はつらい?」
『レオン 完全版』 ©1994 GAUMONT/LES FILMS DU DAUPHIN
レオン 「つらいさ」
マチルダ 「私が欲しいのは愛か死よ」
『レオン 完全版』 ©1994 GAUMONT/LES FILMS DU DAUPHIN
※本稿では、文化庁により定められた引用のルールに基づき、画像・台詞の引用を行わせていただいております。
コメント